東京地方裁判所 昭和40年(ワ)466号 判決 1966年7月19日
原告 破産者山口信一破産管財人 名波倉四郎
被告 朴己成
右訴訟代理人弁護士 構溝光暉
主文
一、被告は原告に対し別紙目録記載の家屋につき、
(1) 昭和三九年一一月一三日東京法務局台東出張所受付第二五六四六号を以ってなされた抵当権設定登記
(2) 昭和三九年一一月一三日右同所受付第二五六四七号を以ってなされた根抵当権設定登記
(3) 昭和三九年一一月一三日右同所受付第二五六四八号を以ってなされた所有権移転仮登記
(4) 昭和三九年一二月一日右同所受付第二七一六一号を以ってなされた所有権移転登記
の各抹消登記手続をしなければならない。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一双方の申立
原告は主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は請求棄却訴訟費用原告負担の判決を求めた。
第二原告の請求原因
(一) 訴外山口信一は、昭和四〇年三月一二日午前一〇時東京地方裁判所において破産宣告を受け、原告は同時にこれが破産管財人に選任された。
(二) これよりさき破産者山口信一は、昭和三九年一一月一二日被告との間で自己が被告に対し負担する金二〇〇万円の金員支払債務について、これが債務弁済契約を締結するとともにその所有に係る別紙目録記載の家屋(以下本件家屋という)について、これを共同担保として被告のために抵当権設定を約し、<省略>根抵当権を本件家屋を担保として設定することを約し、<省略>登記したほか、右根抵当権をもって担保される債務の債務不履行を停止条件とする代物弁済契約をなし<省略>。
(三) しかしながら右抵当権設定契約、根抵当権設定契約及び停止条件付代物弁済契約は、以下述べるように破産者山口信一が破産債権者を害することを知ってこれをなしたものであるから、原告は破産法第七二条一号にもとづきこれを本訴において否認し、右各登記の抹消を求める。
すなわち、破産者山口信一は右各契約当時資産として本件家屋のほかには、靴仕上品約七六万円相当量及び回収不能の濃厚な売掛債権約四〇〇万円を有するだけであり、これに対し負債として訴外富田興業株式会社に対し、金二〇〇万四九一二円の買掛金債務を負担していたほか、他に総額一〇〇〇万円に及ぶ債務を負担していて、その直後の昭和三九年一一月一七日には債権者を召集して、支払停止の宣言をなし、同月三〇日に不渡手形を出したのみならず、それより以前の同年一〇月頃からは資金繰りが悪化し、同年一一月一〇日には倒産必至の形勢となっていたものである。
第三被告の答弁及び主張
請求原因(一)及び(二)の事実は認める。同(三)の事実は否認する。
被告は、被告が破産者山口信一との間で原告主張の各契約をした当時破産者は本件家屋の他に横浜市中区松影町四丁目一二七番一、宅地一一五坪八合四勺とその地上に家屋番号一二七番一、鉄筋コンクリート造陸屋根四階建旅館一棟、一階、二階、三階各六八坪八合七勺、四階五坪六合四勺の家屋を訴外朱大斗と共有して、その二分の一の持分を有していたし、その経営する営業も継続していたので無資力の状況にはなかったのであるから、被告としては右各契約当時破産債権者を害すべき事実を知らなかったものである。
第四証拠関係<省略>
理由
一、<省略>。
二、そこで原告が請求原因(三)で主張する破産者山口信一の害意及び被告が抗弁として主張する被告の害意の存否について判断する。
(1) まず破産者山口信一の財産状態を考えるに、成立に争いのない甲第四号証ないし同第九号証(但し第四号証及び第九号証は各一、二にわかれる)及び証人富田常八郎の証言により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、同第一二号証及び証人山口信一の証言により真正に成立したものと認められる甲第一一号証を総合すると、破産者山口信一は、同人が本件建物について被告との間で同人のために当事者間に争いのない抵当権、根抵当権の各設定契約及び停止条件附代物弁済契約を締結した当時、訴外富田興業株式会社に対して金二〇〇万四九一二円の買掛債務を負担していたほか、他に約一、〇〇〇万円の買掛債務を負担していたことが認められ右認定に反する証拠はなく、他方、証人山口信一の証言、同富田常八郎の証言及び同人の証言によって真正に成立したものと認められる甲第一二号証を総合すると、破産者山口信一は昭和三九年一一月一〇日現在、多くても金三〇〇万相当量の靴製品の在庫品と、靴縫製機等若干の機械を有していたことが認められるが、被告主張の横浜の不動産は成立に争いのない乙第一、二号証及び証人山口信一の証言を総合すると、破産者山口信一の所有名義になっているが、真実の所有者は、同人の義兄であることがみとめられ、右各認定に反する証拠はなく、また債務については、前記証拠によれば同年一一月一七日現在訴外山一サンダルに対し約金五五〇万円の売掛金があることが認められるが、証人富田常八郎、同宮崎正夫の各証言を総合すると、右山一サンダルは同年九月頃から経営が悪化し、同年一一月初旬には悪化の状態が顕著に現われ、同月一七日倒産したことが認められ、これによると同年一一月一二日現在においては右売掛債権は回収不能のいろの濃厚なものと認めるのが相当であり、右認定に反する証人朴晨煥同山口信一の各証言は前記証拠に照して措信できない。
以上認定した事実によれば昭和三九年一一月一二日現在における破産者山口信一の実質資産はその負債額を大きく下回るものであったことが認められる。
(2) 次に破産者山口信一の営業状態をみるに、証人富田常八郎、同宮崎正夫の各証言を総合すると、同人の営業に係る靴の製造、販売は昭和三九年春頃から悪化しはじめ、同年一〇月には資金繰りが悪化し、遂に同年一一月一七日には債権者を召集して支払停止の宣言をなして事実上倒産し、同月三〇日には不渡手形を出していることが認められ、右認定した事実を総合すると、同月一二日は倒産の可能性は大きいものであったということができ、<省略>。
(3) 更に破産者山口信一と被告との関係については、証人富田常八郎、同宮崎正夫の各証言を総合すると、破産者山口信一は、独立して営業を開始し、継続してゆく上において、被告の援助によるところが大きく、被告との取引高も他の業者とのそれよりも多く、したがって取引上のみならず、個人的にも特に緊密な関係であったことが認められ、<省略>。
以上、破産者山口信一の財産状態、営業状態、及び被告との関係更には弁論の全趣旨を総合すると、破産者山口信一が、本件建物について、被告との間で、被告のために、抵当権、根抵当権及び停止条件附代物弁済の各契約を締結した当時、右両者は、破産者山口信一の他の債権者を害することを知って右各契約をなしたものというべきであり、<省略>。
二、そして、以上の認定事実によれば、原告の本訴請求は法律上理由があるからこれを正当として認容し、<省略>主文のとおり判決する。